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「パスファインダー」の感想 [その他]

日曜日に池袋のサンシャイン劇場で、キャラメルボックスの「パスファインダー」という舞台を観てきました。その感想を簡単に書きたいと思います。

この作品は、成井豊さんの新作ですが、基になった作品があります。それは、梶尾真治さんが書かれた「クロノス・ジョウンターの伝説」という連作短編集です。キャラメルは、これまでこの短編集から5作品を舞台化して上演しているようです。実は、私は原作も読んでないし、これまで上演されている舞台も全く見てなくて、なんの予備知識もなく、舞台を観ました。この作品は、成井さんが書かれたものですが、原作者の梶尾さんも観にこられて、他の人達にも見るように薦めたらしいです(^_^)。

クロノス・ジョウンターというのは、タイムマシンの名前で、どこか民間の会社の研究所で開発されたものという設定です。過去に行ってある時間(48時間とか)留まれるのですが、どういうわけか現在には戻れずに、反動で未来に飛ばされるというのが、このクロノスシリーズのお約束事らしいです。

以下、「パスファインダー」のあらすじをごく簡単にご紹介します。もちろん、ネタバレですので、これから見に行かれる方は以下を読まないほうがいいと思いますので、ご注意を(^_^)。


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★あらすじ★
タイムトラベルものですが、ストーリーは比較的シンプルで、分かりやすい部類に入ると思います。

主人公の光晴(演じるのは岡田達也さん)は、39歳で、クロノス・ジョウンターがある研究所の研究者。妻とはしばらく前に離婚し、仕事は真面目にやってはいるが、あまり成果が上がらず、研究に行き詰っていて、仕事が終わるとアルコール浸りになっているような人です。その光晴にクロノス・ジョウンターに乗って、過去に行ってくれないかという依頼がきます。確か、5年ぐらい前に行って欲しいという依頼でしたが、光晴は行くのだったら、大学院生(?)の時に亡くなった兄に会いに行きたいという希望を出します。

ただし、光晴には過去に行くことに関して、一つ心残りがありました。それは、同僚の女性研究者の倉敷さん(演じるのは岡内美喜子さん)のことが好きで、できれば結婚したいと思っていたことです。もし、23年前の過去に行くと、戻る時にかなり遠い未来に飛ばされて、その倉敷さんがもうお婆さんになってしまうからです。それで、過去に行く踏ん切りをつけるために、倉敷さんに求婚しようとしたのですが、倉敷さんは既に婚約者がいるということで、あっさり振られてしまいます。

それで、23年前に跳ぶわけですが、お兄さんが住んでいるアパート(マンション?)の前に現れます。その時、どういうわけかリンと名前の小学生の女の子(演じるのは木村玲衣さん)にぶつかって、おでこから血が出るぐらいの怪我をさせてしまいます。お兄さんは、39歳の光晴が自分の弟(の未来の姿)だとなかなか信じてくれませんでしたが、最終的には時間を少し跳ぶ(ふと姿が消えて、しばらくしてからまた現れる)のを見て、時間旅行を信じてくれました。

リンという子は、両親が借金を抱えて、リンを伯父さんに預けた上で姿をくらませていました。光晴は親切にもリンが両親を捜しに行くのに付き合ったりしました。この辺りでは、光晴がお兄さんに会いに行くというストーリーと全然関係がないリンをなぜ登場させたんだろうと不思議に思いました。

このお兄さんは、科学者になるために勉強していると思われていたのですが、実際は演劇にはまって、劇団に入って舞台に立つという生活をしていました。光晴は怒りを感じるのですが、リンと一緒にお兄さんが演じる舞台を見て、リンも光晴も心が軽くなるのを感じるというシーンもあり、そういうお兄さんの姿を理解することになります。お兄さんが演じた舞台(劇中劇)は、やはりキャラメルの作品で「また逢おうと竜馬は言った」です。実は、この作品も見たことがないですが、光晴役の岡田達也さんは、この作品で竜馬を演じたこともあり、そのへんの事情を知っているキャラメルファンの方は面白く感じたことと思います。

この「パスファインダー」は、キャラメルボックス30周年記念の第1弾(の一つ)にもなっていて、劇中劇にはその意味も込められているのかもしれません。

リンはすっかり光晴になついてしまい、最後に別れる時に大きくなったら光晴のお嫁さんになるというようなことを言います。ここに至って、ひょっとしてとストーリーが見えてきた気がしました。つまり、リンが成長して倉敷さんになるわけです。倉敷さんの婚約者というのは、実は光晴その人だったわけです。リンは一生懸命勉強して、光晴が務める会社に研究者として就職するのですが、実は光晴は既に結婚していたわけです。でも、しばらくして離婚することになります。倉敷さんは、光晴が過去に行かないと子供の頃のリンに出会わないので、過去に行かせるしかなかったわけです。

でも、光晴が現在に戻ろうとすると、現在を通り越して遠い未来に行ってしまうので、どうなるんだろう、と思って見ていると、倉敷さんがクロノス・ジョウンターに乗って光晴を追いかけてくるというストーリーになっていました。なるほど!これなら、一緒に未来で暮らせるというわけです(^_^)。心楽しく、晴れやかな気持ちになるハッピーエンドでした。

★感想★

<脚本>
成井さんの新作ですが、さすがのクオリティですね。大いに笑い、(泣きはないけれど)大いに感動しました。何と言っても、二重に(三重に)時を超えて、成就した恋物語が感動的です。晴れ晴れとしたハッピーエンドは、やはりキャラメルらしい気がしました。劇中劇のアイデアもさすがです。残念なことに、クロノスシリーズは初めてだし、「また逢おうと竜馬は言った」も見てないのですが、これらを見ていたら、もっと味わいが深まったことと思います。私は結構キャラメルボックスの舞台を見ている方だと思っていたのですが、コアなファンの方に比べるとまだまだです。

ただ、この脚本で気になったところもあります。まず、光晴を過去に送り込む理由がイマイチよくわからない気がしました。何か理由は付いていましたが、イマイチピンと来ませんでした。過去のクロノスシリーズを見ていれば、納得できたのかもしれませんが、この作品単独では、はっきりしない気がしました。

また、光晴が亡くなる直前のお兄さんに会いに行く、その動機もイマイチそんなに切実とは思えませんでした。というのは、行くはいいけれど帰りは何10年後になるわけで、そうすると科学はずっと進歩していて、戻ってきたときに科学者としてはもうやっていけなくなっている可能性だってあるわけで、そんなに簡単に決断はできない話だと思います。

また、光晴が過去に行く決断の最後の一押しに倉敷さんとの関係があるのですが、これはむしろ過去に行く決断の主な理由を倉敷さんに対する失恋にしたほうが、後のラブストーリーに深みが出る気がします。

もう一つ、光晴が過去に戻って会った後すぐに死んでしまうはずのお兄さんに対して、お酒をやめるようにとか健康に対して忠告するシーンがあります。その忠告をお兄さんが守って、歴史が変わった(お兄さんが長生きした)かどうかが分かりませんでした。それは、分からずに終わった方がいいのかもしれませんが、できれば歴史が変わったというちょっとした証拠を舞台の最後の方に入れてもよかったのではないでしょうか?ひょっとして、そういうものがあったのを私が見逃しただけ?

これらは、細かい点ですが、細かい点までケアしたほうが、味わいが深まるのは確かだと思います。

光晴が過去に行った後で、急に最初の方の光晴がクロノス・ジョウンターに乗り込んで過去に向かうシーンがもう一度繰り返される場面があります。映画やドラマだと、リプレイさせれば簡単ですが、舞台だと同じシーンをもう一度演じるわけです。このリプレイを見たとき、最初「これは何?」と思い、一旦現在に戻ったんだと気付くまでに少しタイムラグがありました。そのしばらくの間、(見ている私自身がタイムスリップでもしたかのような)非常に奇妙な感じがしたのを覚えています(^_^)。ひょっとすると、こういうタイムトラベル物では常套手段なのかもしれませんが、面白く感じられました。そして、全く同じに演じるのではなく、微妙に変えてあった気がするんですが、どうでしょう?それにしても、一旦過去に行ったら現在には戻れないという設定ではなかったかと思いました。過去に行ったという事実を踏まえて現在に戻ったわけではなく、単にやり直しただけなので良いということでしょうか?

<寸評>
(岡内美喜子さん)
この舞台を見ようと決めたのは、岡内さんが出演されるからですが、その情報を知ってからチケットを取ったので、取れた席は一階の中央の最後尾でした。もっと前で見たかったです(^_^;;)。それにしても、岡内さんは、「雨夢」の暁子、「君鼓動」の真知子(でしたっけ?)、そして今回の倉敷さん役に共通するものとして、やや危なげのある男性を愛情を持ってサポートするという役にはまりますね。傍にいると、安心感が感じられるキャラだと思います。倉敷さんのセリフで、「結婚していやがった」と「私頑張ったでしょう?」(微妙に違うかもしれません)は強く印象に残っています。面白い演技でした。

(岡田達也さん)
岡田さんの出演作はたくさんは見てないですが、キャラメルの中では、やや異色のの俳優さんではないでしょうか?ややワイルドなところもあり、男のセクシーさを感じさせる役者者さんだと思います。今回の役も、仕事に行き詰っている男の悲哀を感じるような役をうまく演じていたと思います。

(木村玲衣さん)
この女優さんは初めて見た気がします。自然に演じて子供の雰囲気が出るのはよいですね。まだ若いということでしょうか?「夏への扉」や「飛ぶ教室」でも子供を演じた人たちがいましたが、木村さんが一番自然な演技だった気がします。また、別の役も見て見たいですね。ツイッターで写真を見ると、かなり可愛い感じの人ですね。

(渡邊安理さん)
光晴のお兄さんと同居している雑誌編集役の役(役の名前は絵子だったかな?)。雑誌の編集者で、光晴の手紙を預かり、23年後に投函する役です。23年後には有名小説家になっているという設定でした。安理さんもキャラメルの看板女優の一人だけあって、結構うまいですね。壁に張り付くシーンの演技とか、印象に残っています。それにしても、この絵子(?)のように善意の塊のような役はキャラメルらしいですね。非常にホッとする気がします。

(追記:3/22)
昨日の千秋楽をニコ生で鑑賞しました。最初見たときに勘違いしていた部分があるのを発見しましたので、訂正しておきます。

「光晴が過去に行った後で、急に最初の方の光晴がクロノス・ジョウンターに乗り込んで過去に向かうシーンがもう一度繰り返される場面があります。」と書きましたが、これは一度未来に戻ったのではなく、過去に行くシーンを少し前のあたりから、経緯をさらに詳細に説明するために、繰り返して演じていたものでした。

過去に行ったシーンでリンが交通事故にあいそうなった時に(過去において)少し時間をとばしてリンを事故から救うために、持って行った装置のボタンを押したときに、すぐに時間を少しとばしたシーンに移らずに、光晴がクロノス・ジョウンターに乗り込むあたりの、いわば回想シーンを挿入したものでした。しかし、一度演じたシーンをもう一度(やはりやはり簡略化して)演じたために、見ている私が時間を遡ったような不思議な感じがしたものでした。このあたり、ややわかりにくいと言えるかもしれません。

もう一度千秋楽の舞台を(ニコ生で)見ましたが、やはりいいですね。この作品(^_^)。
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