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舞台「悪魔と天使」の感想(再び)前半 [智花ウォッチング]

この作品は去る3/3に大千穐楽を迎えて無事終了しました。前回感想を書いた時はネタバレを避けるためにあまり突っ込んでは書けませんでした。また、舞台を観た後に原作本も読んだので、改めてこの作品を振り返ってみたいと思います。

(1)原作との違い
舞台と原作、これらが全くと言ってもいいほど違うことに驚きました。舞台設定は似ています。原作では飛行機事故、舞台では列車事故ですが、本来死ぬ運命にあった20人(「ダスト8」では10人、舞台では11人)が生命の石を得たことで生き残ります。生存者のうち2人(原作では音羽さつきと神田岬、舞台では海江田沙月(さつき)と岬慎吾)が生命の山の国(天国?)のボスから残りの生存者から生命の石を取り返してくれば、生き延びることを許すと言われます。ここまでは似てますが、大きな違いは原作では、この2人がこの命令を拒否してあっさりと死んでしまうのに対して、舞台ではその2人がもとの人格と記憶を保ったまま、生命の石の回収に向かうという点です(但し、キキモラが取り付いて人間離れした力を手にします)。また、原作ではさつき岬は子供(そのビジュアルは漫画に表紙に出ています)なのに対して、舞台では2人とも大人です。

次に、他の生存者のエピソードがほとんど全く違います。原作ではラジオのパーソナリティが登場します。これは舞台のラジオDJの有坂瞳とやや似てますが、名前も違うしエピソードも全然違います。また、原作でも売れない画家が登場しますが、舞台の渋井新のエピソードとは全く異なります。舞台のエピソードで、少しだけ原作の雰囲気に近いのがエリ子で、原作でも(苗字は違いますが)名前がエリ子で同じだし、健気に頑張る娘で雇い主から虐められるシーンもあり、舞台にやや似ています。但し、舞台ではエリ子のお母さんが病気なのに対して、原作ではエリ子自身が病気で死んでしまうというストーリーです。全く違うストーリーばかりの中で、エリ子で原作の雰囲気を残したのは、原作へのリスペクトなのかもしれません。原作のエピソードで一つ面白いのは、生存者の1人が飛行機のパイロットで、生き残った後、自分が操縦していた飛行機のトラブルでフィリピンのミンダナオ島に不時着し、残留日本兵と遭遇するというものがあります。「ダスト18」の連載の頃に、残留日本兵が見つかるという出来事があったようです。

もう一つ、原作と舞台で大きく違うのは、原作では生存者が生命の石を手放した瞬間に死んでしまうのに対して、舞台では手放しても、少なくとも1週間ぐらいは生きてられる(実はずっと生きられるのかも)ということです。また、作品のテーマそのものも違う気がします。これについては、次に書きます。

(2)作品のテーマ
今回の舞台のWeb上で公開されていた作品の情報を見ると、生存者の中の2人が生命の石を取り戻しに向かうまでのあらすじとともに、「そこには思いもよらない結末が待っていた」と書かれていました。これを読んで、結末をいろいろ想像したのですが、海江田沙月と岬慎吾が生命の石を生存者から取り戻して、生存者のほぼ全員が死んでしまうという結末はあまり面白くなく、意外な結末でもないと思ったので、他の可能性を考えました。もし私自身がストーリーを書くとしたら、ボスは最後は生存者全員の命を助けるつもりで、ただ命の重さとよりよく生きることの大切さを教えるために直ぐにでも命が奪われるような状況を設定した、というストーリーを書きたいと思いました。まぐれ当たりだと思いますが、実際の舞台のストーリーは、ほぼ私が想像(願望?)したような方向に進みました。

物語の後半に岬がボスは我々を試しているのかもしれないと言い始めます。それまで石を奪うことに消極的だった岬が、とにかく石を回収してボスに返してみましょうというようなことを言います。この言葉の裏に、そうするとボスはみんなの命を助けるつもりかもしれないという意味がこもっていると思いました。結局、生存者の中で死んだのはボランティア活動のために集めた資金を着服していた悪人の大和田と、石を返す時にズルをして友人の渋井の石を返すということをした大前田と、引退公演での演技中に想いを果たした後亡くなった(ように見えた)往年の大女優九条小百合だけで、その他は命が助けられたように見えました。

しかし、これが舞台の結末ではなく、もう一つ結末がありました。「ダスト8」と同じく最後に時間が巻き戻ったように、冒頭の列車事故のシーンがもう一度演じられました。そして、今度は事故で乗客が死ぬようなことはなく、みんな助かるという結末のようでした。しかし、それまでのボスのセリフ(天の声)から考えて、「ダスト8」のように人間たちに生命の石の存在を知られたことがまずいので時間を戻したということでなさそうです。このもう一つの結末をどう解釈するかは置いておいて、このシーンを見た時に、全員が輝いて見えました。普段通りの何気ない日常は、実はこの上なく貴重で、生きていること自体が奇跡のようなものなんだと感じられました。そして、そのことがこの舞台のテーマなんだと思いました。この舞台を見ているこの私の日常も非常に貴重に見えてきて、心を込めて生きていきたいと感じました。そんなことを感じさせてくれるいい舞台でした。(つづく)
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